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福島地方裁判所 平成7年(行ウ)8号 判決 1998年9月28日

福島県郡山市本町一丁目一二番一一号

原告

春木剛

同市希望ヶ丘二七番五号市営住宅一の七の七〇六

原告

春木正雄

右両名訴訟代理人弁護士

高橋一郎

福島県郡山市堂前町二〇番一一号

被告

郡山税務署長 菊地進

右指定代理人

鳥居俊一

粟野金順

鎌田公夫

菅野正孝

草野謙治

小坂義博

阿部修

齋藤正昭

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一1  被告が平成五年一二月二七日付けで原告らの平成四年八月一三日相続開始に係る相続税についてした更正のうち別紙一の主位的請求欄記載の各金額を超える部分(ただし、平成七年一一月二四日付け更正及び平成八年一〇月二日付け更正により一部取り消された後のもの。)をいずれも取り消す。

2  予備的主張に基づくと

被告が平成五年一二月二七日付けで原告らの平成四年八月一三日相続開始に係る相続税についてした更正のうち別紙一の予備的請求欄記載の各金額を超える部分(ただし、平成七年一一月二四日付け更正及び平成八年一〇月二日付け更正により一部取り消された後のもの。)をいずれも取り消す。

二  被告が平成五年一二月二七日付けで原告らの平成四年八月一三日相続開始に係る相続税についてした過少申告加算税賦課決定(ただし、平成八年一〇月二日付け更正により一部取り消された後のもの。)をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、春木イチ(以下「イチ」という。)が平成四年八月一三日死亡したことにより、原告春木剛(以下「原告剛」という。)及び原告春木正雄(以下「原告正雄」という。)が別紙二記載の土地のほか現・預金等を相続したとして、原告らが平成五年二月一日相続税の申告をした後、更正の請求をしたところ、被告が同年一二月二二日付けで更正すべき理由がない旨の通知をするとともに、同月二七日付けで、別紙一の増額更正等欄記載のとおりの増額更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件過少申告加算税賦課決定」という。また、本件更正処分及び本件加算税賦課決定を一括して「本件各処分」という。)をし、その後、減額更正したという経過において、原告らが本件各処分は本件相続財産のうちの別紙二記載の番号1ないし9の各土地(以下、番号1の土地から順に「本件土地1」、「本件土地2」といい(以下同じ)、本件土地1ないし9の各土地を一括して「本件土地」という。)の評価について、平成四年の路線価から四〇パーセント減額した価額を基準とするか(主位的主張)、少なくとも平成五年の路線価を基準とすべき(予備的主張)ところを、平成四年の路線価を基準としており、これが相続税法二二条に違反するとして、本件各処分の取消しを求め、被告は本件各処分における本件土地の評価は相続税法二二条及び昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資)一七国税庁長官通達「相続税財産評価に関する基本通達」(平成四年三月一一日付け課評二―二による改正前のもの。平成三年一二月一八日付け課評二―四、課資一―六「相続税財産評価に関する基本通達の一部改正について」により、その題名は財産評価基本通達と改められている。以下「財産評価基本通達」という。)に基づくものであって違法ではなく、本件各処分も適法であると反論している事案である。

二  当事者間に争いのない事実等

A  本件訴え提起に至る経緯

1 原告らはイチの相続人であったが、イチは平成四年八月一三日死亡し、原告らは本件相続財産を共同相続した。

2(一) 原告らは、平成五年二月一日、別紙一の申告欄記載のとおり相続税の申告をした。

(二) 原告らが本件相続財産として申告した内容は次のとおりである。

(1) 取得財産の価額

<1> 本件土地 金二億四三六五万六五三〇円

<2> 本件土地10ないし13 金一五八九万八八九六円

<3> 家屋 金六一八万八七一〇円

<4> 現預金 金二三五五万二二二四円

<5> 動産 金一〇万円

<6> 合計 金二億八九三九万六三六〇円

(2) 債務及び葬式費用の価額 金二二三万五三七三円

(3) 課税価格の合計額 金二億八七一六万円(一〇〇〇円未満切り捨て)

3 原告剛は、同年三月一八日、別紙一の修正申告欄記載のとおり修正申告(以下「修正申告」という。)を、原告正雄は、右同日、別紙一の修正申告欄記載のとおり更正の請求(以下「第一次更正の請求」という。)をした。

4 被告は、原告正雄に対して、同年四月六日付けで、第一次更正の請求に基づく更正(以下「第一次更正処分」という。)をした。

5 原告らは、同年五月三一日、別紙一の主位的請求欄記載のとおり更正の請求(以下一括して「第二次更正の請求」という。)をした。

6 被告は、原告らに対し、同年一二月二二日付けで、第二次更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。

7 被告は、原告らに対して、同月二七日付けで、別紙一の増額更正等欄記載のとおり第二次更正となる本件更正及び本件過少申告加算税賦課決定をした。

8 原告らは、同月二八日、第二次更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分に対し異議申立てをしたが、被告は原告らに対し、平成六年三月二五日付けで、本件異議申立てをいずれも棄却する旨の異議決定をした。

9 原告らは、国税不服審判所長に対して、同年四月一四日、審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成七年六月二七日付けで、審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。

10 原告らは、被告に対して、同年九月二五日、本件各処分の取消しを求める本件訴えを提起した。

11 被告は、原告らに対し、同年一一月二四日付けで、減額更正(以下「第三次更正」という。)をし、更に、平成八年一〇月二日付けで、別紙一の減額更正等欄記載のとおり更正(以下「第四次更正」という。)をした。

B  財産評価基本通達の概要

1 財産評価基本通達の概要について

(一) 財産評価基本通達は、国税庁長官が国税局長宛に発した通達で、相続税及び贈与税の課税価格計算の基礎となる財産の評価に関する基本的な取扱いを財産の種類ごとに詳細に定めたもので、地価税の評価においても適用されている。

(二) 財産評価基準の概要について

財産評価基準とは、財産評価基本通達によって、その策定を委ねられた各国税局長が、相続、遺贈または贈与により取得した財産及び地価税に係る土地等の評価に適用する目的で定めた財産評価額を算出するのに必要な具体的基準であり、主に土地の評価に関し、路線価方式による評価を行う場合の路線価設定地域図と倍率方式による評価を行う場合の評価倍率表から構成されている。

また、基準書とは、右財産評価基準の内容を全国の各県地域ごとに編集したもので、毎年八月中旬、当該地を管轄する税務署及び国税局の窓口で一般に公開され、同内容のものが財団法人大蔵財務協会から販売されている。

2 財産評価基本通達は相続財産の価額の評価について、次のように定めている。

(一) 土地の評価について

課税時期における土地の現況の地目の別に応じて(財産評価基本通達7)、課税時期における実際の面積により評価する(同8)。地目の判定は、不動産登記事務取扱手続準則一一七条、一一八条に準じて行う(同7)。

(二) 宅地については、市街地的形態を形成する地域にある宅地については路線価方式により、それ以外の宅地については倍率方式による(同11)。

路線価方式とは、その宅地の面する路線に付された路線価を基とし、奥行価格補正、不整形地、無道路地、間口が狭小な宅地等、がけ地等の評価の定めにより計算した金額によって評価する方式をいう(同13)。

路線価は、宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線(不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいう。)ごとに設定される。路線価は、路線に接する宅地で、(1)その路線のほぼ中央にあること、(2)その一連の宅地に共通している地勢にあること、(3)その路線だけに接していること、(4)その路線に面している宅地の標準的な間口距離及び奥行距離を有するく形または正方形のものであることの各事項のすべてに該当するものについて、売買実例価額、公示価格、精通者意見価格等を基として国税局長がその路線ごとに評定した一平方メートル当たりの価額をいう(同14)。

そして、奥行価格補正とは、一方のみが路線に接する宅地の価額は、路線価にその宅地の奥行距離に応じて付表1「奥行価格補正率表」(なお、本件においては、平成四年八月二七日付け課評二―一〇、課資一―一五による平成四年分及び平成五年分用をいう。以下同じ。)に定める補正率を乗じて求めた価額にその宅地の地積を乗じて計算した価額によって評価する(同15)ことをいい、当該宅地が不整形の場合は、その宅地の地積をその間口の距離で除して得た計算上の奥行距離を基として、右定めにより計算した価額とする(同20の(1)のロ)。

また、不整形地、無道路地、間口が狭小な宅地等、がけ地等の評価のうち、不整形地の価額については、その不整形の程度、位置及び地積の大小に応じ、その近傍の宅地との均衡を考慮して、一定の方法により算出された価額からその価額の一〇〇分の三〇の範囲内において相当と認める金額を控除した価額によって評価する(同20の(1))こととし、その具体的な計算方法については財産評価基本通達において地区区分及び地積区分に応じた蔭地割合(想定整形地の地積から評価対象地の地積を控除した後の地積を想定整形地の地積で除した割合)から得られた「不整形地補正率」をその宅地の価額に乗じて求める。

(三) 農地の評価に当たっては、まず、農地を、(1) 純農地、(2) 中間農地、(3) 市街地周辺農地、(4) 市街地農地のいずれかに分類する(同34)。

そのうえで、純農地及び中間農地の価額は、その農地の固定資産税評価額に、田又は畑の別に、地勢、土性、水利等の状況あるいは地価事情の類似する地域ごとに、その地域にある農地の売買実例価額、精通者意見価格等を基として国税局長の定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する(同37及び38)。

また、市街地農地は、その農地が宅地であるとした場合の一平方メートル当たりの価額から、その農地を宅地に転用する場合において通常必要と認められる一平方メートル当たりの造成費に相当する金額として、整地、土盛り又は土止めに要する費用(以下「宅地造成費相当額」という。)の金額がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める金額を控除した金額に、その農地の地積を乗じて計算した金額によって評価する(同40)。

そして、市街地周辺農地は右市街地農地の価額の一〇〇分の八〇に相当する金額によって評価する(同39)。本件における宅地造成費相当額として国税局長が定める金額とは、「財産評価基準書」(以下「基準書」という。)「5宅地造成費の標準価額表」に掲げられている金額である。

(四) 雑種地とは、田、畑、山林等のいずれにも該当しない土地をいい(同7、不動産登記事務取扱手続準則一一七条)、雑種地の評価については、原則として、その雑種地と状況が類似する付近の土地について財産評価基本通達の定めるところにより評価した一平方メートル当たりの価額を基とし、その土地とその雑種地との位置、形状等の条件の差を考慮して評価した価額に、その雑種地の地積を乗じて計算した金額によって評価する(同82)。

(五) 家屋の評価方法

家屋の価額は、原則として一棟の家屋ごとに評価し(同88)、その家屋の固定資産税評価額に財産評価基本通達の別表1に定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する(同89)。なお、右家屋の固定資産税評価額に乗ずる倍率は一・〇である。

(六) 一般動産の評価方法

一般動産の価額は、原則として、調達価額に相当する金額によって評価する。ただし、調達価額が明らかでない動産については、その動産と同種及び同規格の新品の課税時期における小売価額から、取得の時から課税時期までの期間の償却費の額の合計額又は減価の額を控除した金額によって評価する(同129)。

(七) 預貯金の評価方法

預貯金の価額は、課税時期における預入高と同時期現在において解約するとした場合に既経過利子の額として支払を受けることができる金額から当該金額につき源泉徴収されるべき所得税の額に相当する金額を控除した金額との合計額によって評価する。ただし、定期預金、定期郵便貯金及び定額郵便貯金以外の預貯金については、課税時期現在の既経過利子の額が小額なものに限り、同時期現在の預入高によって評価する(同203)。

C  本件相続財産を財産評価基本通達の定めるところによって評価すれば、次のとおりとなる。

1 本件土地について

(一) 本件土地の地目、地区区分、形状・地積及び利用状況は次のとおりであった。

(1) 本件土地1について

本件土地1は、地目畑で、財産評価基本通達14―2の地区区分の定めにより仙台国税局長が定めた普通住宅地区に位置し、東側と南側及び西側の三路線に接し、南側と西側路線の交差部分にすみ切りがされ、正面路線(南側路線)からの奥行二一メートル、側方路線(東側路線及び西側路線間)の奥行五五メートルの土地(地積一一五五平方メートル)で、畑として利用されていた。

(2) 本件土地2について

本件土地2は、地目畑で、普通住宅地区に位置し、直接接する路線はないものの、土地9を通路として北側の一路線に通ずるおおむね正方形の土地(地積二〇四平方メートル)で、畑として利用されていた。

(3) 本件土地3について

本件土地3は地目畑で、普通住宅地区に位置し、東側の一路線に接し、北側を斜めに小川が流れ、その南側と北側とで高低差のある、平均的奥行距離一五・三七メートル(地積四九八平方メートルを間口距離三二・四平方メートルで除したもの)の不整形な土地で、畑として利用されていた。

(4) 本件土地4について

本件土地4は、地目宅地で、普通住宅地区に位置し、本件土地3の南側隣接地で、東側の一路線に接した奥行き一七・八メートルのおおむね正方形の土地(地積二六二平方メートル)で、木原邸の敷地として賃貸されていた。

(5) 本件土地5について

本件土地5は、地目畑で、普通住宅地区に位置し、西側と北側の二路線に接し、同路線の交差部分にすみ切りがされ、正面路線(西側路線)から奥行き一六・九平方メートル、側方路線(北側路線)から平均的奥行距離一一・七七メートル(地積一九九平方メートルを間口距離一六・九メートルで除したもの。)の土地で、畑として利用されていた。

(6) 本件土地6について

本件土地6は、地目畑で、普通住宅地区に位置し、北側の一路線に接し、奥行距離が間口距離の約二・九倍(五三・二メートル)と細長い土地(地積九六二平方メートル)で畑として利用されていた。

(7) 本件土地7について

本件土地7は、地目畑で、普通住宅地区に位置し、東側と北側の二路線に接し、同路線の交差部分にすみ切りがされ、正面路線(北側路線)から奥行き一〇・九メートル、側方路線(東側路線)から奥行き三五・六メートルの長方形の土地(地積三九一平方メートル)で、畑として利用されていた。

(8) 本件土地8について

本件土地8は、地目宅地で、財産評価基本通達14―2「地区区分」の定めにより仙台国税局長が定めた普通商業・併用住宅地区に位置し、南側の1路線に接したほぼ正方形の土地(地積合計四〇九・〇八平方メートル)で、原告剛の居住用家屋の敷地として利用されていた。

(9) 本件土地9について

本件土地9は、地目雑種地で、普通住宅地区に位置し、北側の一路線に接し、間口の距離が三・五メートルと狭く、奥行距離も間口距離の約六・三倍(二二メートル)と細長い土地(地積合計六六・六四平方メートル)で、本件土地2への通路として利用されていたもので、その周辺は宅地ないし畑である。

(二) 本件土地の分類及びその評価方法について

本件土地の地目、地区区分、形状、地積及び利用状況を財産評価基本通達に照らせば、本件土地4及び本件土地8は、いずれも市街地的形態を形成する地域内にある宅地であるから、路線価方式により評価することが、本件土地9は市街地的形態を形成する地域内にある宅地に隣接する雑種地であるから、右宅地に準じて路線価方式により評価することが、本件土地のうち本件土地4、8及び9以外の土地は、いずれも市街化区域内にある農地であるから、市街地農地に該当し、いずれも路線価方式に準じて評価することが、それぞれ相当である。

そして、本件土地4は、財産評価基本通達25にいう「借地権、地上権等の目的となっている宅地」に該当することから、「貸宅地の評価」により評価し、土地8は原告剛の居住の用に供されていた土地であるから、租税特別措置法六九条の三(小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例)を適用して評価することとなる。

(三) 本件土地の評価額について

(1) 本件土地1について

正面路線の路線価金五万六〇〇〇円に奥行価格補正率〇・九九を乗じた金五万五四四〇円と、側方路線が二路線であり、いずれも路線価が同額で、奥行きも同程度であるので、側方路線価金四万九〇〇〇円に奥行価格補正率〇・八八及び側方路線影響加算率〇・〇五を乗じた二一五六円の二倍である四三一二円との合計額五万九七五二円から宅地造成費相当額(土盛りを必要としない場合は整地費として)金二〇〇円を控除した金五万九五五二円に地積一一五五平方メートルを乗じた金六八七八万二五六〇円となる。

(2) 本件土地2について

原告らは、本件土地2の価格について、直接接する路線がないため、通路として利用している本件土地9に原告らが設定した仮路線価金四万七五〇〇円から宅地造成費相当額(土盛りを必要としない場合は整地費として)金二〇〇万円を控除した金四万七三〇〇円に地積二〇四平方メートルを乗じて金九六四万九二〇〇円になると評価申告していた。

そして、右仮路線価は、本件土地9が接している路線の路線価金五万円に奥行距離三四メートルの奥行価格補正率〇・九五を乗じた金額とも一致していたため、被告は本件各処分において原告らの右申告額を是認していた。

しかし、本件土地2の財産評価基本通達による評価額は、本件土地2が本件土地9を通路として北側の一路線に通じ、その形状が不整形地としての評価をすることが相当と認められることから、北側の一路線の路線価金五万円に本件土地9を通路とした奥行距離三四メートルの奥行価格補正率〇・九五及び不整形地補正率〇・七〇を乗じた金三万三二五〇円から宅地造成費(土盛りを必要としない場合は整地費として)金二〇〇円を控除した金三万三〇五〇円に地積二〇四平方メートルを乗じた金六七四万二二〇〇円と減額評価するのが相当である(弁論の全趣旨)。

そこで、被告は第四次更正において、右の評価のとおり減額更正した。

(3) 本件土地3について

路線価金四万九〇〇〇円に奥行価格補正率一・〇〇及び不整形地補正率〇・九五を乗じた金四万六五五〇円から宅地造成費相当額金三八一七円(土盛りを要する高さが〇・六メートルの場合の一平方メートル当たりの整地、土盛りの費用二一〇〇円と、土止めを要する高さが〇・六メートルの場合の長さ一メートル当たり土止め費用二万六四〇〇円に土止めを要する長さ三二・四メートルを乗じた金額を地積四九八平方メートルで除した一平方メートル当たりの土止め費用金一七一七円との合計額)を控除した金四万二七三三円に地積四九八平方メートルを乗じて算出した二一二八万一〇三四円とする原告らの申告額を是認した。

なお、右評価額は、本来、右不整形比率を基準書における地区区分が普通住宅地区で地積区分がAの蔭地割合(想定整形地の地積五七六・七二平方メートル(間口距離三二・四メートルに奥行距離一七・八メートルを乗じたもの)から評価対象地の地積四九八平方メートルを控除した後の地積七八・七二平方メートルを想定整形地の地積五七六・七二平方メートルで除した割合)一五パーセント未満の欄により求めた〇・九九によって計算した金二二二五万七一一四円と評価すべきであったが、原告らの右申告額を是認したもので、右是認額は本来評価すべき価額の範囲内である。

(4) 本件土地4について

路線価金四万九〇〇〇円に奥行価格補正率一・〇〇及び地積二六二平方メートルを乗じた金一二八三万八〇〇〇円から借地権割合三〇パーセントに相当する金額を控除した金八九八万六六〇〇円となる。

(5) 本件土地5について

正面路線の路線価金六万八〇〇〇円に奥行価格補正率一・〇〇を乗じた金六万八〇〇〇円と側方路線の路線価金六万六〇〇〇円に奥行価格補正率一・〇〇及び側方路線影響加算率〇・〇五を乗じた金三三〇〇円との合計額金七万一三〇〇円から宅地造成費相当額(土盛りを必要としない場合は整地費として)金二〇〇円を控除した金七万一一〇〇円に地積一九九平方メートルを乗じて金一四一四万八九〇〇円となる。

(6) 本件土地6について

路線価金六万五〇〇〇円に奥行価格補正率〇・八八及び奥行長大補正率〇・九八を乗じた金五万六〇五六円から宅地造成費相当額(土盛りを必要としない場合は整地費として)金二〇〇円を控除した金五万五八五六円に地積九六二平方メートルを乗じて金五三七三万三四七二円となる。

なお、被告は本件各処分において、本件土地6の価額を五三七六万〇四七二円と評価していたが、第三次更正において、右の価格に減額更正した。

(7) 本件土地7について

正面路線の路線価金六万二〇〇〇円に奥行価格補正率一・〇〇を乗じた金六万二〇〇〇円と側方路線の路線価金五万五〇〇〇円に奥行価格補正率〇・九五及び側方路線影響加算率〇・〇五を乗じた金二六一二円との合計額金六万四六一二円から宅地造成費相当額(土盛りを必要としない場合は整地費として)金二〇〇円を控除した金六万四四一二円に地積三九一平方メートルを乗じて金二五一八万五〇九二円となる。

(8) 本件土地8について

路線価金一六万円に奥行価格補正率〇・九九を乗じた金一五万八四〇〇円に地積四〇九・〇八平方メートルを乗じた金六四七九万八二七二円となるが、当該宅地の二〇〇平方メートルまでの部分に相当する宅地の価額については、六割を減額する租税特別措置法六九条の三「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」を適用して、当初価額から金一九〇〇万八〇〇〇円を控除した金四五七九万〇二七二円となる。

(9) 本件土地9について

被告は本件各処分において、本件土地9は雑種地であるが、近隣土地は路線価方式で評価される土地であることから、本件土地9も路線価方式に準じて評価するものであり、路線価金五万円に奥行価格補正率〇・九九及び間口狭小補正率〇・九〇並びに奥行長大補正率〇・九〇を乗じた金四万〇〇九五円から宅地造成費相当額(土盛りを必要としない場合は整地費として)金二〇〇円を控除した金三万九八九五円に地積六六・六四平方メートルを乗じて金二六五万八六〇二円となるとしていた。

しかし、本件土地9については、右の事情に加えて、現況が特定の者の通行の用に供されている土地であることから、私道の用に供されている宅地としての評価を行うことが相当と認められる。

したがって、本件土地9は、北側の一路線の路線価金五万円に奥行価格補正率〇・九九及び間口狭小補正率〇・九〇並びに奥行長大補正率〇・九〇を乗じた金四万〇〇九五円に、私道の用に供されている宅地の評価割合一〇〇分の六〇を新たに乗じた金二万四〇五七円に地積六六・六四平方メートルを乗じた金一六〇万三一五八円と評価するのが相当である(弁論の全趣旨)。

そこで、被告は第四次更正において、右のとおり減額更正した。

2 相続財産のうちの本件土地以外の土地の評価額について

相続財産のうち本件土地以外の土地は、いずれも農業振興地域の整備に関する法律八条二項に定められている農用地区域に存在する地目が田の土地であって、基準書により、その農地の固定資産税評価額に評価倍率表の農地の倍率欄に定める倍率を乗じて評価することとされている。

右の評価基準を右各土地に適用すると次のとおりである。

(一) 本件土地10について

固定資産税評価額は金三六万二五二〇円であり、これに評価倍率一一・七を乗じて金四二四万一四八四円となる。

(二) 本件土地11について

固定資産税評価額は金四三万五二四〇円であり、これに評価倍率一一・七を乗じて金五〇九万二三〇八円となる。

(三) 本件土地12について

固定資産税評価額は金三六万二八八〇円であり、これに評価倍率一一・七を乗じて金四二四万五六九六円となる。

(四) 本件土地13について

固定資産税評価額は金二九万七三六〇円であり、これに評価倍率七・八を乗じて金二三一万九四〇八円となる。

右各評価額は原告らの申告額と同額である。

3 本件相続財産のうちの家屋の価額について

右各家屋はいずれも郡山市本町一丁目三三番の三に位置し、その固定資産税評価額はそれぞれ金二三七万五九六五円、金一七六万九九六五円及び金二〇四万二七八〇円であり、これらの固定資産税評価額に評価倍率一・〇を乗じた各金額が右各家屋の評価額である。

右各評価額は原告らの申告額と同額である。

4 本件相続財産のうちの一般動産について

原告らは右一般動産の価額について金一〇万円と申告しているところ、被告はこれを是認した。

5 本件相続財産のうちの現金・預金の価額について

原告らは右現金・預金の価額について金二三五五万二二二四円と申告しており、これを是認した。

6 以上によれば、原告らの本件相続財産のうち本件土地の価額は合計金二億四七二二万九三六八円、その余の財産の価額は合計金四五七三万九八三〇円、これらの合計額は金二億九二九六万九一八九円となり、課税価格の合計額は、右二億九二九六万九一八九円から原告ら申告の債務及び葬式費用の合計額である金二二三万五三七三円を控除し、課税価格の合計額の端数計算に当たっては、相続税法一六条及び基本通達16―3の規定により、それぞれの相続人の課税価格を算出する際に一〇〇〇円未満の端数があるとき若しくはその金額が一〇〇〇円未満であるときはその端数金額又はその全額を切り捨てることになるので、端数処理後の本件課税価格の合計額は金二億九〇七三万三〇〇〇円となる。

そして、右評価額は第三次更正及び第四次更正後の本件各処分において、被告が原告らの相続財産を評価した額と同額ないしその範囲内の額である。

三  争点

1  本件の争点は、被告の第三次更正及び第四次更正による一部取消後の本件各処分における本件土地の評価が相続税法二二条に違反するかどうかのみである。

2  原告らの主張

(一) 課税実務上は相続財産の価額評価の一般的基準として、財産評価基本通達が定められており、これにより定められた財産評価方法によって画一的に財産を評価しているところ、かかる取扱いも通常の経済情勢のもとでは適法かつ妥当なものとしての評価を受けうる。そして、財産評価基本通達は、市街地的形態を形成する地域に存在する宅地等の価額については路線価方式によって評価すると定めている。

しかし、路線価が時価と相当程度乖離する事態となり、路線価をもって時価と評価することが妥当性を欠くに至るなら、右の画一的評価基準により算定された価額は相続税法二二条の定める時価とみなせなくなり、その結果、路線価を用いた相続税の課税処分も違法として取り消されるべきことになる。

(二) そして、平成四年分の相続税の算定に当たり、平成四年の路線価に基づいて土地を評価することは、次の事情から違法である。すなわち、

(1) 本件相続開始時点においては、いわゆる不動産取引に対する規制の強化及び重課税方針によって不動産取引が停滞し、これによって不動産の時価が大幅に下落していたところ、被告は右規制強化等以前の過去の売買実例を基礎として本件土地の価額を評価したものである。

しかも、日本経済はいわゆるバブル経済と呼ばれる異常なインフレ経済により、不動産をはじめとして株価やゴルフ等の会員権等の価格が常軌を逸する高騰を続けたものの、右の価格高騰は平成三年初めころから一挙に崩壊し、右資産等の価格は急激かつ大幅に下落した。

そして、平成四年分の相続税申告時である平成五年三月には、バブル経済崩壊による右資産等価格の大幅な値下がりが確定的となり、これら資産の時価(取引価格)も平成二年当時の半分近くにもなったことは公知の事実である。

ところが、バブル経済崩壊による土地等の資産価格の下落にもかかわらず、路線価は平成四年分も下がるどころか上昇を続け、平成五年分になってやっと若干の低下をみて、以後一部の例外を除き平成七年まで下がり続けた。そして、路線価は平成四年をピークとして平成七年には平成四年の約六割となっている。しかし、平成四年はバブル経済崩壊が始まって既に約一年間が経過しており、地価が大幅に低下したものであるが、平成四年の路線価がピークということ自体から路線価の評価に問題があることがうかがわれる。

加えて、原告らの本件相続財産評価の基準となった路線価は、平成四年には前年の六〇パーセントないし一〇六パーセントという異常な高騰をみせた。したがって、平成四年分の路線価は、バブル経済の異常な地価高騰を適正な地価の上昇と誤認して、かつ平成三年にはバブル経済が崩壊したにもかかわらず、かかる経済動向やこれにともなう地価の動向を無視して評価決定されたもので、平成四年における適正な相続税課税のための財産評価基準とならないことは周知のことである。換言すれば、平成四年分の路線価は同年一月一日時点の地価の評価であるが、その算定の基礎となる取引事例は平成三年中のものであり、これはバブル経済崩壊時期で地価が最も高かった時期についての取引実績であって、かかる取引実績を基礎として評価決定された路線価をバブル経済崩壊後である平成四年中に開始した相続についての財産評価基準とすることは失当である。

(2) 右の各事情は、本件土地の価額について路線価方式によって評価することを著しく不当ならしめる特別な事情に該当するので、本件の相続税評価に当たっては、財産評価基本通達によって相続財産の評価を行うことによる課税事務の統一性、簡便性による便宜を考慮してもなお、本件土地を路線価方式によって評価すべきではない。そして、被告は本件土地の時価が右評価基準の路線価と著しく相違することを知っていたのであるから、課税事務処理上の煩雑さにかかわらず、本件土地について適切な時価の算定をした上、これに沿った相続税の課税をすべきことは当然である。

(三) また、本件土地にはいわゆる市街地農地が含まれているところ、被告は、市街地農地について通常の宅地と同様の評価方法を採用しているが、かかる評価方法は市街地農地を宅地化する際の都市計画法上の規制及び農地法上の制限(例えば買主及び利用方法の制限)による評価減を全く無視することとなるおそれがあり適正とはいえない。

(四) 更に、本件土地はいわゆる空洞化地域すなわち従来店舗及び事務所並びに住宅等として利用された区域において、建物の所有者がその使用目的を失い、当該建物を取り壊して、その土地の売却を望んでいたにもかかわらず、買い手がなく、更地または駐車場として放置または管理される土地が多く存在する区域に存在しているところ、かかる土地については、市場原理に基づく取引価格、いわゆる時価が存在しないので、かかる土地の評価は当該土地の利用状況の収益性による収益還元法によってされるべきである。

(五) したがって、被告が本件土地の評価に当たって、財産基本通達に基づき平成四年の路線価を基準とした路線価方式による評価を基礎としたことは違法である。

(六) そして、被告は本件各処分において、本件土地を次のように評価すべきであった。

(1) 主位的主張

右事情に鑑みれば、本件土地の相続開始時の時価は、経済環境の変化によって、前年に比較して少なくとも四〇パーセントは下落していたので、本件土地の価額は平成四年分の路線価によって評価算出した価額から四〇パーセント減額したものを基準として算定すべきであって、その価額は合計金一億四六一九万三九一七円と評価するのが相当である。この価額は昭和六〇年の売買実例、収益還元方式によって評価した場合の価額からみても妥当な額である。

原告らの右主張は、被告の課税根拠である路線価が宅地の全国平均でも平成五年以降三年連続して一〇数パーセントの下落を継続しており、平成七年にはピーク時の平成四年分の六割にも落ち込んでいることからも裏付けられる。

したがって、被告の第三次更正及び第四次更正による一部取消後の本件各処分のうち、本件土地につき平成四年の路線価を四〇パーセント減額した価格を基準として評価した別紙一の主位的請求欄記載の課税価格、税額を超える部分は違法である。

(2) 予備的主張

仮に右主位的請求欄掲記の価額が適正とはいえないとしても、次の事情から、平成五年分の路線価により評価すべきであった。すなわち、相続税申告の基準となる地価はその申告時期(平成四年分なら同年一二月か平成五年三月)の時価によるべきものであるところ、バブル経済の到来前は年間の土地の評価額は数パーセント内外の変動で、しかも価格上昇の傾向にあったことから、課税年の一月一日時点における評価は納税者にとっても利益となるもので妥当合法なものといえた。しかし、バブル経済到来以降地価は急速に上昇したが、バブル経済崩壊後には、少なくともバブル経済期の地価が異常なもので、バブル経済崩壊後には急速に地価が下落すること、したがって、これに配慮した路線価の評価を行う必要のあることは、容易に判断できることであった。そこで、平成四年中に相続が開始した事例については、平成四年一月以降地価が急速に下落していることに配慮して、平成四年中の取引事例を基礎とした平成五年一月一日時点の評価である同年の路線価より高い価格で評価することは失当である。

したがって、被告の第三次更正及び第四次更正による一部取消後の本件各処分のうち、本件土地につき平成五年の路線価を基準として路線価方式により評価した別紙一の予備的請求欄記載の課税価格、税額を超える部分は違法である。

3  被告の主張

(一) 相続税法二二条の「時価」の意義について

相続税法二二条は、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨を規定している。同条に規定する「時価」とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じて、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する価額すなわち、対象財産の客観的な交換価格をいうものと解される。しかし、対象財産の客観的交換価格は必ずしも一義的に確定されるものではなく、これを個別的に評価するとすれば、評価方法等により異なる評価額を生じたり、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあるため、課税実務上は、財産評価の一般的基準が財産評価基本通達により定められ、これに定められた評価方法によって画一的に財産を評価しているところである。右のように財産評価基本通達によりあらかじめ定められた評価方法によって、画一的な評価を行う課税実務上の取扱いは納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地から見て合理的であり、一般的には、これを全ての納税者に適用して財産の評価を行うことは、租税負担の実質的公平をも実現することができ、租税平等主義に適うものであるというべきである。

(二) 財産評価基本通達及び基準書における相続財産の評価方法の概要について

財産評価基本通達及び基準書における相続財産の評価方法の概要は前記第二、二当事者間に争いのない事実等B財産評価基本通達の概要のとおりである。

(三) 路線価の評定については財産評価基準14で定められており、その定める路線価の評定手続の概要は次に述べるとおりである。

(1) 路線価の評定に当たり基準点となる土地について

路線価の評定に当たり、基準点となる土地(以下「標準地」という。)とは、

<1> 国土庁の土地鑑定委員会が、一般の土地の取引価格に対して指標を与えることを目的とした地価公示法により、毎年一月一日現在の公示価格を決定する地価公示標準地(以下「公示地」という。)、

<2> 右公示価格を補うものとして、各都道府県が右公示価格と同様の性格を有するものとして、毎年七月一日現在の基準地標準価格を決定する基準地(以下「基準地」という。)、

<3> 各国税局長が、その管轄地域内において、財産評価基本通達14で定める標準的な条件に該当する場所として選定して、毎年一月一日現在の価格を不動産鑑定士、不動産業者、金融機関職員等の精通者に意見を求め決定する価格(以下「精通者意見価格」という。)を求める標準地(以下「その他の標準宅地」という。)、の全てをいい、仙台国税局管内における平成四年分の右標準地は約二万四〇〇〇地点に及んでいる。

(2) 標準地における仲値の評定について

「仲値」とは、当該土地において、自由な取引が行われるとした場合、その取引において通常成立すると認められる一平方メートル当たりの価格をいい、いわゆる買進みや売急ぎがなかったものとした場合における価格をいうのであって、次のとおり評定するものである。

なお、標準地は、必ずしも財産評価基本通達の14で定める標準的な条件に該当しない場合があり、その場合には、財産評価基本通達の奥行価格補正や側方路線影響加算等の定めによって標準的な土地としての価額に修正(以下「標準化補正」という。)した後の価格をもって評定することとなる。

<1> 公示地の仲値の評定

原則として、公示価格を標準化補正して評定する。

<2> 基準地の仲値の評定

原則として、基準地標準価格を標準化補正し、更に、一月一日現在の価格に修正(時点修正)して評価する。

<3> その他の標準宅地の仲値の評定

その他の標準宅地の仲値は、精通者意見価格及び近隣における売買実例価格を基に、その付近にある公示地の仲値及び基準地の仲値との均衡を図って評定する。

(3) 標準地の路線価の評定について

標準地の路線価は、右(2)により評定した仲値に、路線価の適用がその年一年間に及ぶことや課税の安定性の要請からくる安全度のために、評価割合八〇パーセントを乗じて評定する。

(4) 標準地以外の路線価の評定について

標準地以外の路線価の評定は、原則として、その路線について現地確認を行ったうえ、その路線に最も近い標準地の路線価を基として、売買実例価額、路線の状況、家屋の疎密度その他宅地の利用上の便宜等を総合的に勘案し、更に、その路線と隣接する路線との均衡にも配慮して評定する。

(5) まとめ

以上述べたように、路線価格は、周辺路線との評価の均衡が維持されたもので、一般に評価水準も堅めの評価(時価以下評価)がされていることは公知の事実であり、その合理性も判例及び学説により認められているところである。

(四) 第三次更正及び第四次更正による一部取消後の本件各処分における本件土地についての計算根拠

被告は第三次更正及び第四次更正による一部取消後の本件各処分において、本件相続財産の評価について、財産評価基本通達及び基準書を適用して、前記第二、二当事者間に争いのない事実等Cのとおり評価した。

(五) 被告の第三次更正及び第四次更正による一部取消後の本件各処分における本件相続財産の評価は、右のとおり、財産評価基本通達にしたがったものであるので、違法ではない。

(六) 原告らの主張に対する反論

(1) 原告らは、平成三年春頃には、日本のバブル経済は崩壊を開始し、以後市街地の地価は急速に大幅な下落を続けており、この傾向が本件土地についても同様であると主張する。

しかし、右の地価の大幅な下落は主に都市部並びに商業地域等の特定の地域における現象であり、原告らの主張は具体的根拠もなく、地価が急激に変動した特定の地域とこれが当てはまらない本件土地とを同列に論じるものであって、その前提要件を欠くので、原告らの右主張は失当である。

(2) 原告らは、相続税の申告の基準となる地価は、その申告時期(平成四年分なら平成四年一二月か平成五年三月)の時価によるべきであるとも主張する。

しかし、相続税法二二条は相続財産の価額は、特別に定める場合を除き当該財産の取得の時における時価による旨を規定しており、いわゆる「相続時の時価」を課税価格とすると解されるのであるから、原告らの右主張は相続税法二二条の規定を無視した法的根拠のないものであり、失当である。

(3) 原告らは、バブル経済崩壊後については、少なくともバブル経済期の路線価が異常なもので、バブル経済崩壊以後、急速に地価が下落することは素人にも予想できたと主張する。

しかし、路線価は公示価格や売買実例価格に準じて評定されるものであって、その評定手続に合理性のあることは、バブル期及びバブル崩壊後を問わないものであるから、原告らの右主張は失当である。

(4) 原告らは、平成四年分の相続税課税に当たって、同年一月一日時点の路線価によることなく、改めて同年一二月時点での路線価を算定し直すか、評定割合として八〇パーセントではなく、五〇パーセントないし六〇パーセントを乗ずる方式に変更すべきであったと主張する。

しかし、評価時点についての原告らの主張は相続税法二二条が規定するところの相続時の時価に反するものであり、合理的、法的根拠がない。

更に、土地の評価については、いわゆる買進みや売急ぎが往々にして行われ、自由な取引が必ずしも行われていないことが多いことから、多くの場合路線価を基準とする評価方法が採用されており、その適用期間が一年間に及ぶことや課税の安定性の要請からくる安全度のために仲値に評価割合八〇パーセントを乗じたものが路線価とされているのであって、時価としての路線価評価がいわゆる堅めに評価(時価以下評価)されていることからすると、原告らはその主張する本件土地にかかる時価が、平成四年分の路線価の五〇パーセントないし六〇パーセントの水準であるとの具体的根拠につき、主張、立証すべきものであると考えられるところ、具体的には何らの主張、立証もなく、したがって、原告らの右主張は合理的理由に基づいて算出された金額であるとは到底いえないものであって失当である。

(5) 原告らは、少なくとも、平成四年分については平成五年分の路線価より高く評価することは失当であり、本件土地の評価額は、平成四年の時価によるべきであるところ、バブル経済崩壊により同年中の地価が下落傾向にあったことが公知の事実であることから、同年末、すなわち平成五年の路線価によることが平成四年の時価により近い評価をすることになり適切であると主張する。

しかし、右主張は、何故に、本件相続時点における本件土地の時価が当然に平成四年分の路線価を下回り、平成五年分の路線価によって評価されるべきとするのか、そもそも具体的根拠が不明であるほか、仮に原告らの主張のとおり、平成五年分の路線価を平成四年分の相続財産に対して適用して算定することが妥当とするならば、そもそも相続税の申告納税制度を否定することにもなりかねない点でも失当である。すなわち、原告らの主張のとおり平成五年分の路線価をもって平成四年分の相続財産を評価することとするならば、路線価の公表が例年八月に行われていることから、申告期限を経過してから公表される評価基準を適用することを前提とすることとなり、申告そのものが期限までにできないこととなって、実務上採用することは不可能だからである。また、逆に地価が上昇傾向にある場合には、当然ながら相続時よりも高価額で評価されることとなり、相続税法二二条でいう「相続時の時価」という規定に反することが明らかであることからも、妥当なものとはいえないからである。

結局、原告らの主張は、平成四年分の路線価と平成五年分のそれとを比較したところ減少傾向にあることから、相続の時期を無視して、単に自己に有利な方を自由に選択させて、後年分の路線価を適用すべきであるとするものであって、何らの根拠も有しないご都合主義のものであることは明らかであるから採用できない。

(6) 原告らは、バブル経済期においては、路線価の三倍ないし四倍の取引価格が通例であったのに、平成四年には路線価の二倍を超える取引はまれとなり、平成五年には路線価の二倍を超える取引はみられなくなったこと、そして、平成四年には路線価を下回る取引事例が一六件中四件もみられたことから、本件土地の一般的な市場価格が路線価を下回ることは十分予想できたと主張する。

しかし、右主張の根拠たる甲第三号証の土地取引事例については、具体的な資料の提出がなく、そもそも真実取引が行われたかどうかにつき、その立証がされているものでないばかりか、右取引の経緯も明らかになっておらず、標準的取引として妥当なものであるかどうかも明らかにされていないことから、証拠としての妥当性を欠くものであると言わざるを得ない。また、甲第三号証からは、当該土地の現況、形状等が明らかにされていないばかりか、当該土地取引実例を検討すると、仲値足り得ないことは明らかである。更に、甲第三号証で示されている土地と路線価をそのまま比較すること自体無意味である。なぜならば、そもそも標準化補正後の土地の価格として評定している路線価は、当該路線のほぼ中央に位置し、その一連の宅地に共通している地勢にあり、当該路線だけに接し、標準的な間口距離及び奥行距離を有するく形または正方形のものであることとした上での一平方メートル当たりの価格をいうのであって、甲第三号証で示されている土地と単純に同列に比較することはできないものだからである。

結局のところ、原告らは、従前においては土地の時価に比して路線価が低額であったため、実質的な税負担が軽くて済んだところ、路線価の評価割合が見直された平成四年以降はこれが八〇パーセントに引き上げられたこと等のため、過去に相続した者よりも実質的な税負担が重くなった点に不満を持ち、主に大都市部や商業地域等の特定地域では大幅な地価の下落があり、当時の土地の時価が下落基調にあったことを奇貨として、これを一般論として、無理に事情の異なる本件土地にあてはめようとの主張を行うものであり、たとえ、本件土地の相続時における価格に多少の減少傾向がみられるとしても、相続税課税価格を算出するに当たり、本件路線価を適用したことをもって直ちに合理性を失することとはならないから、原告らの主張は失当であると言わざるを得ない。

第三当裁判所の判断

一  相続税法二二条の「取得の時の時価」の意義

相続税法は、相続税の課税価格は相続によって取得した財産の価額の合計額であるとし(一一条の二)、相続によって取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価であるとしている(二二条)。そして、右にいう「取得の時」とは、具体的には被相続人または遺贈者の死亡の日をいい、「時価」とは、当該財産の客観的な交換価値のことであって、不特定多数の当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる取引の価額を意味すると解される。したがって、相続による財産の取得後に何らかの理由によってその価値が低落した場合にも、課税価格に算入されるべき価額は、相続時における当該財産の時価であると解される。また、第三次更正及び第四次更正による一部取消後の本件各処分における本件土地の評価が、本件相続時における本件土地の客観的交換価値を上回らないのであれば、右の本件各処分には、本件土地について相続税法二二条の「時価」を上回る評価をした違法はないことになる。

ただ、右のような意味での客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定しうるものではなく、相続の発生の都度これを個別的に評価するほかないものとすれば、評価方法の違いや取引事例の欠如等によって、事案ごとに異なる評価額が生じる結果となって、租税負担の公平を害するおそれがあり、かつ、大量の課税事務を処理すべき課税庁に過大な負担と費用を強いることになるから、課税庁が準拠すべき一般的で簡便な評価方法を定め、これによって課税実務を運用することは、当該評価方法の合理性が認められる限り適法であると解すべきである。そして、国税庁長官が定める財産評価基本通達及びこれに基づき各国税局長が定める評価基準は、前記第二、二当事者間に争いのない事実等B財産評価基本通達の概要に摘示したそれらの趣旨及び内容に照らして、右の合理性の認められる評価方法を定めたものというべきである。もとより、このような財産評価基本通達や評価基準は、法規としての性格を有するものでないから、納税者はこれによらず、適正な時価を主張することができることはいうまでもないが、納税者の適格な主張がない場合には、右財産評価基本通達及び評価基準の合理性が認められる限り、右財産評価基本通達及び評価基準によって評価した価額に基づき課税処分を行うことができるものというべきである。

二  ところで、財産評価基本通達は、前記のとおり路線価を基準として土地を評価すべきものと定めているところ、原告らは本件土地の評価については平成四年の路線価を基準とすべきでないと主張するので、この原告の主張について判断する。

1  前記当事者間に争いのない事実等記載の事実、甲第二号証、第三号証、第四ないし第九号証、乙第二号証、第三号証の一ないし七、第四号証及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。すなわち、

(一) 本件土地が存在する地区又はその近隣の地区には、平成四年中に次の売買実例があった(以下、価格は一平方メートル当たりの価格である。)。

所在 地目 売買年月 価格

(1) 郡山市小原田二丁目 畑 平成四年一〇月 金七万五六一〇円

(2) 同所 田 同年七月 金九万〇八二三円

(3) 同市昭和二丁目 田 同年一〇月 金八万八五〇〇円

(4) 同所 宅地 同年一二月 金七万九三二五円

(5) 同市本町一丁目 宅地 同年三月 金三九万八〇〇〇円

(二) 右(一)の各土地の平成四年の路線価は次のとおりであった。

(1) 金五万五〇〇〇円

(2) 金六万八〇〇〇円

(3) 金五万九〇〇〇円

(4) 金五万二〇〇〇円

(5) 金二一万五〇〇〇円

(三) 本件土地が存在する地区又はその近隣の地区の公示価格等は次のとおりであった。

所在 基準地価格(平成四年度) 同(平成五年度)

(1) 郡山市小原田二丁目 金八万三〇〇〇円 金八万一五〇〇円

所在 公示価格(平成四年度) 同(平成五年度)

(2) 同市本町二丁目 金二五万円 金二二万六〇〇〇円

(3) 同市朝日町一丁目 金二七万七〇〇〇円 金二三万六〇〇〇円

(四) 右(三)の各土地の平成四年の路線価は次のとおりであった。

(1) 金六万八〇〇〇円

(2) 金二〇万円

(3) 金二二万五〇〇〇円

(五) 右認定事実及び前記の各証拠等によれば、本件土地が存在する地区又はその近隣の地区内の右認定に係る平成四年中の土地売買実例の代金額がいずれも同年の路線価を上回っていたこと、本件土地が存在する地区又はその近隣の地区に所在地のある平成四年度及び平成五年度の基準地価格又は公示価格が同地点の平成四年度の路線価を上回っていること、財産評価基本通達に定める路線価は、毎年一月一日を評価時点として、公示価格、売買実例価額及び不動産鑑定士等の精通者意見価格を基に、公示価格の八〇パーセント程度の評価水準により評価されていることが認められるところ、これらの事情によれば、本件土地の本件相続発生時の価格について平成四年の路線価を基に評価することにより、本件土地の時価を上回る評価をすることになるとは認められない。

2  これに対して、原告らは、被告が本件土地を平成四年の路線価を基準として評価したことは、バブル経済によって上昇した路線価を基準として、バブル経済の崩壊により本件相続時には下落していた本件土地の価額を評価したこととなる点で失当である旨主張する。

甲第二号証、乙第四号証によれば、本件土地の平成五年の路線価はいずれも平成四年の路線価を下回ったこと、本件土地の存在する地区及びその近隣の地区に存在する公示価格等が平成四年から平成五年にかけて最大一五パーセント下落したことが認められ、甲第三号証によれば、郡山市の本件土地の存在する区域及びその近隣区域には、平成四年一月から同年一二月までの間、合計一五件の土地取引事例があり、そのうち四件の取引価格が路線価を下回ったことがうかがわれる。

しかし、前記各証拠及び前記認定に係る事実によれば、平成四年から平成五年への路線価の下落率はそれが大きい土地で約七パーセント、小さい土地では約二パーセントに過ぎないこと、公示価格等は最大一五パーセント下落したといっても、前記認定のように路線価は公示価格等の八〇パーセント程度の評価水準で評価されており、右の下落率はいずれも右の評価水準の範囲内であること、仮に、甲第三号証記載の各取引が全て行われていたとしても、同取引一五件中一一件までは同年の路線価を上回る価格により取り引きされたこと、残りの四件中一件は地積が狭いことから通常の価格として評価の参考に供することが適切とは言い難いこと、右一五件の取引土地の地目、利用状況が不明であって、これらを仲値として評価することはできないことが認められ、これらの事情をも併せ考慮すれば、右の各事実をもって、前記1の判断を覆すまでには足りない。

また、本件土地の存在する地区又はその近隣の地区の売買実例や公示価格等の動向は前記の認定判断のとおりであり、これをも併せ考慮すれば、本件相続時の本件土地の価格算定の基準として平成四年の路線価を用いることを不相当とすべき理由は何ら存在しない。

3  原告らは本件土地の本件相続開始時の評価基準として平成四年の路線価を四〇パーセント減価した金額が適正である旨主張するが、原告らの右主張の根拠はいずれも抽象的なものにすぎず、本件全証拠によってもこれを裏付ける資料は存在しないこと、前記1、2に認定判断のとおりの事情から、本件土地を平成四年の路線価を基準として評価することを不相当とする事情までは認められないことによれば、原告らの右主張は失当である。

4  更に、原告らは、本件土地の本件相続開始時の評価基準として、平成五年の路線価が適正である旨主張する。

しかし、原告らの右主張の根拠は抽象的なものであって、これを裏付けるに足りる事実は本件全証拠によって認められないこと、前記1、2に認定判断のとおり事情によれば、本件土地の時価が平成四年の路線価を下回っているとはうかがわれないことから、原告らの右主張は失当である。

三1  本件土地を平成四年の路線価を基準として財産評価基本通達により評価した場合には、本件土地は前記第二、二当事者間に争いのない事実等記載のとおり評価される。

2  ただ、原告らの主張は、財産評価基本通達の定める内容が次のような点で違法であると主張する趣旨であるとも解される。

(一) 原告らは本件土地を収益還元法によって評価すべきであるのに、財産評価基本通達がそのように定めていないことは違法であると主張する。

しかしながら、収益還元法により不動産の価値を正確に評価するためには、対象不動産が将来生み出すであろうと期待させる純収益を算定するために予測される諸要素を的確に把握すること及び収益還元率を正しく定めることが不可欠の要件であるところ、これらには、<1>土地の価額に見合う収益の算定が困難であること、<2>経営者の能力、財産状態により収益の額が左右されること、<3>還元利回りの算定が困難なこと等の問題があると解されることから、収益還元法を直ちに土地の評価基準として採用することはできない。したがって、財産評価基本通達が収益還元法に基づいて土地の評価の基準を定めていないからといって、これを理由に直ちに評価の基準として合理性を欠くとか相当でないとは認められない。原告らの右主張は失当である。

(二) また、原告らは、市街地農地の評価に際して、都市計画法上の規制及び農地法上の制限による評価減を無視すべきでないと主張し、財産評価基本通達が右評価減を評価していない点が不合理であり相当でないと主張する。

しかし、乙第四号証及び弁論の全趣旨によれば、本件土地のうちの市街地農地は、都市計画法の規定による市街化区域内に存在しており、農地転用についての届出をすれば宅地化が可能な土地であることが認められることから、右の土地の市場価格は、農業収益を目的とした価格よりも宅地転用可能地価格として成立すると認められること、財産評価基本通達は、市街地農地の評価について、その農地が宅地であるとした場合の価額からその農地を宅地に転用する場合において必要と認められる造成費相当の金額を控除した金額を基準として算定するものと定めていること、右価格算定法に格別不相当な点はないこと等を併せ考慮すると、原告らの右主張のように、財産評価基本通達が市街地農地について都市計画法等の制限等による評価減を考慮しない不合理な評価基準を定めているものとは認められない。

四  以上によれば、被告の第三次更正及び第四次更正による一部取消後の本件各処分における本件土地の評価は、本件土地について平成四年の路線価を基に財産評価基本通達に基づいて評価したものであるところ、右認定判断のとおり、本件土地の本件相続時の時価を算定するに当たって、財産評価基本通達に基づき、平成四年の路線価を基準として評価したことは相当であって、具体的な評価の過程も相当であるので、相続税法二二条に違反するとは認められない。また、本件土地以外の本件相続財産の評価等が適正であることについては当事者間に争いがない。したがって、被告が右本件各処分において算定した原告らが本件相続により取得した課税価格等は相当であると認められる。

第四結論

以上の次第で、第三次更正及び第四次更正の後の本件各処分は適法であり、原告らの請求は理由がないから、原告らの本訴請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六五条一項、六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 生島弘康 裁判官 高橋光雄 裁判官 吉井隆平)

別紙一

<省略>

別紙二

<省略>

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